幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 自分から口に出したことなのに、とんでもないことを言ったという認識が今さらながら湧いてきた。

 だけど、樹山の言う通り「利害の一致」でのことだと思えば──そうだ、これはまさに「契約」。ならば仕事と似たようなものだと思えばいい。

 私はその場で、メモ帳の契約書にサインした。
 お互いの意思をもう一度確認し、日本酒とカクテルで乾杯して、握手を交わした。
 それが私たちの「結婚式」だった。


「……って、今さらだけど、良かったのかな」

 役所での手続きを終えて、次は免許の変更のために警察署へ行こうと歩きながら、私はひとりごちる。

 先週の居酒屋での約束から、週末の2連休を使っての、双方の両親への挨拶。2か月前に再会してすぐに意気投合した、と説明したものの、あまりのスピード展開にどちらの親からも「大丈夫なのか」と心配された。まあ当然のことだろう。
 お互いの決意は固いから、なんて歯の浮くようなことを言って説き伏せたけれど。

 そして最終的には、私の両親も樹山の親御さんも、急な結婚話を認めてくれた。

『昂士くんがしっかりしてるから大丈夫だろう』

『佐奈子さんがしっかりしたお嬢さんだから大丈夫でしょ』

 それぞれの親にそう言われたので、幸い、相手の印象は良いようだった。
 1年後に離婚することを思うと、ちょっと申し訳なくもなったけど。
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