幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

「……私、そんなこと樹山に言った?」

「あ、えっと」

 今度が樹山が戸惑った顔をする。

「直接にじゃないけど、他の女子としゃべってるの、聞いたことがある」

「……そう」

 あの頃、意気揚々としていた自分が懐かしい。こんなふうに、夢を壊されて戻ってくることになるなんて、思ってもみなかった。

 黙ってしまった私に、樹山は何を思っているのか。変な奴だな、と思われているかもしれない。
 適当に「急ぐから、じゃあ」とか言って立ち去ろう、そう考えた時。

「なあ、時間ある?」

「は?」

「俺、思ったより仕事早く終わったんだ。夕方までに報告に戻れば大丈夫だから、一緒に昼飯行かね?」

 時計を見ると、12時10分前。朝が早かったから、確かにお腹は空いている。けれど。
 かつての同級生とはいえ、ほぼ10年ぶりに会った相手に対して、少しばかり躊躇も感じる。昔はまあ、男女の性差を感じないぐらいに、親しくしていた時期もあったけど。

「それとも、なんか急ぐ用事ある?」

 問われて、言葉に詰まる。一緒に行けば確実に、仕事を辞めた理由について聞かれるだろう。
 ……だけどこのまま、まっすぐ実家に帰ったところで、相手が変わるだけで事態は同じだ。いや、身内が話し相手の方が、事情が事情だけにさらに憂鬱は深い。
 どっちを選んでもたいして変わりないのなら、ここで会ったのも何かの縁だ。申し訳ないけど樹山に、身内に話す前の練習台になってもらおう。

「ううん、別に。急がない」

「なら来いよ。駅前の駐車場に車、停めてあるから」
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