幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 それはそれで、私にも都合が良いはずだ。
 昔の彼氏に対するみたいに、いつ手出しされるかビクビクしなくていいわけだし。

 何より、昂士くんは本当に、同居人として非常に優秀で、なおかつ一緒にいて落ち着く。男として意識する必要のない相手なんて、契約相手として最高じゃないか。

 ……そう、思っていたはずなのだけど。


 すっかり気候が秋めいた、11月初め。
 このところ、例の『保険メルカート』に関わって遅くなっていたのだけど、その日は久しぶりに早く帰れた。

 最近ようやく、マンションコンシェルジュの女性の「お帰りなさいませ」にも慣れてきた。40階に上がり鍵を開けると、ひんやりした空気と暗い部屋に出迎えられる。

 ここ1週間ほど、昂士くんとはまともに顔を合わせていない。彼もかなり仕事が忙しいらしく、私が休んだ後に帰ってくるのと、朝は私より早く出ていくのが常態化していた。

 今日は確か、東京への出張の後、夜に直帰だと聞いた。
 またたぶん、ギリギリまで仕事をして、遅くなるのだろう。

 いつもなら先に寝るのだけど、さっき帰ってきた時のひんやりした空気を思い出して、今日は、そうしたくない気分が湧いてきた。
 夕食も、ついでだからと思って、二人分作ってしまう。ご飯を多めに炊いて、チャーハンと野菜スープ。余ったら明日のお弁当や、夕食に回せばいい。
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