幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 スープの最後の一滴を飲み干すまでに、10分もかからなかったんじゃないかと思う。ご飯の一粒、野菜のひとかけらも残さない食べ方は、お育ちの良さの賜物なんだろうな。

「ごちそうさま。ほんとに旨かった。助かったよ」

「……ありがとう」

 あれから何度も、うまい旨いと言われて、ちょっと身の置き所がない気分だった。そんなに美味しく感じた理由はきっと、空腹だったのと、他人に作ってもらった状況が大きかったに違いない。

 ──とは思うけど、それでも、嬉しかった。
 長い一人暮らしで、誰かのために料理したことなんか、久しく無かった。付き合った人たちとも短い付き合いだったから、家に招いて手料理を振る舞うような関係性には至らなかったし。

 だから、人に料理を作ってあげて「美味しい」と食べてもらうのが、こんなに嬉しいことだとは、実は知らなかったのだ。

 食器を洗う昂士くんの後ろ姿を見ながら私は、さっきの彼の笑顔と食べっぷりに思いを馳せていた。


 その後、休日に限ってだけど、私が昼食を担当したり、昂士くんが夕食を作ったりするようになった。11月終わりの昂士くんの誕生日には、一緒に作って、豪華なディナーを演出したりもした。
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