幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
停めてある、と言った車は、車種にあまり詳しくない私でも知っている、外国産の高級車だった。しかも社用車ではなく自分の車らしい。
……ああそうか、忘れていた。
「そういえば樹山、お坊ちゃんだったね」
「その言い方やめてくれよ」
苦虫を噛みつぶしたように樹山は応じる。
「本当のことじゃん」
「だから嫌なんだって」
本当に嫌そうに返された。ごめん、と謝りながら助手席のシートベルトを締める。
樹山昂士は、地元の町で、小学校から高校まで同じだった同期生。家はそれほど近所ではなかったけど、同じクラスになる年が多く、他の男子に比べると自然に話せる相手だった。そういう意味では「幼なじみ」と言えるかもしれない。
ずっと地元の公立に通っていたけど、樹山は周囲からいつも注目される存在だった。不動産業から身を起こし、今では大手の旅行代理店や保険代理店も傘下におさめる、樹山物産。その若社長の息子となれば、目立たないはずがなかった。
彼が名門私立へ行かずにごく普通の公立に通っていたのは、一般人の感覚を知ることが大事との、家の教えのためだったらしい。
目立っていたとはいえ、小学校時代はまだ、そうでもなかった。先生たちにとっては特別視せざるをえない存在だっただろうけど、私たち児童の間では「他よりちょっとお金持ちの家の子」ぐらいの認識だったのだ。