幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
はっと目を覚ました時、自分の状況がよくわからなかった。
寄りかかっているのがベッドの縁だと気づいて、現状を思い出す。
……何度も、タオルをまた濡らしては額に載せ直すことを繰り返していて。
10回、いやもっとかもしれない回数ののち、昂士くんが寝言のように、ぽつりと発した言葉に、耳を疑った。
──佐奈子……
切なげに呼ばわったのは、私の名前。
そんな声を出すのも初めて聞いたし、呼び捨ても初めてだ。
いつも、ちょっと遠慮がちに『佐奈子さん』と呼ぶのに。
あっけにとられていると、彼の右手が、布団の上をさまよった。何かを探すかのように。
思わず、その手を両手でつかんでしまった。熱でじんわり熱い肌をさすると、安心したかのように昂士くんの表情が緩み、手の動きも止まった。
彼の手は、男性らしく骨ばっていて、肌は意外となめらかで、そして大きかった。
その感触を手放す気になれなくて、つかんだままベッドサイドに座り込み、様子を見ているうちに──眠ってしまったのだった。たぶん0時頃だったと思う。さすがに私も、一日の仕事の後で疲れていたようだ。
もぞりと体を動かすと、手をぎゅっとつかまれる感覚がした。顔を上げる。
目を覚ました昂士くんが、横たわったまま、こちらをまっすぐに見ていた。