幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 はっと目を覚ました時、自分の状況がよくわからなかった。
 寄りかかっているのがベッドの縁だと気づいて、現状を思い出す。

 ……何度も、タオルをまた濡らしては額に載せ直すことを繰り返していて。
 10回、いやもっとかもしれない回数ののち、昂士くんが寝言のように、ぽつりと発した言葉に、耳を疑った。

 ──佐奈子……

 切なげに呼ばわったのは、私の名前。

 そんな声を出すのも初めて聞いたし、呼び捨ても初めてだ。
 いつも、ちょっと遠慮がちに『佐奈子さん』と呼ぶのに。

 あっけにとられていると、彼の右手が、布団の上をさまよった。何かを探すかのように。

 思わず、その手を両手でつかんでしまった。熱でじんわり熱い肌をさすると、安心したかのように昂士くんの表情が緩み、手の動きも止まった。

 彼の手は、男性らしく骨ばっていて、肌は意外となめらかで、そして大きかった。

 その感触を手放す気になれなくて、つかんだままベッドサイドに座り込み、様子を見ているうちに──眠ってしまったのだった。たぶん0時頃だったと思う。さすがに私も、一日の仕事の後で疲れていたようだ。

 もぞりと体を動かすと、手をぎゅっとつかまれる感覚がした。顔を上げる。

 目を覚ました昂士くんが、横たわったまま、こちらをまっすぐに見ていた。
< 50 / 104 >

この作品をシェア

pagetop