幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
あまりにも視線ががっちりと合ってしまって、とっさに言葉が出てこない。
「……あ」
「佐奈子、さん?」
手をもう一度握られかけて、慌てて引っ込める。焦りを押し隠し、背筋を伸ばして彼の目を見返す。名残惜しそうに私の手を見つめていると思ったのは、気のせいだろうか。
「お、起きてたの。気分はどう、頭痛はしない?」
「……気分は、悪くない。頭痛も治まった感じ」
「熱は、どうかな。ちょっとは下がった──」
と、額に伸ばしかけた手を、ぱしりとつかまれる。
その力の強さに驚いていると、昂士くんの目に、見たことのない色が浮かんでいることに気づいた。下がり切っていない熱の余韻なのか、それとも──
よくわからなかったが、それだけに反射的に怖く感じて、再び手を引っ込めようとする。けれどそれは許されず、ぐいと力任せに引き寄せられた。
彼のワイシャツの肩に、顎が当たる。
抱きしめられている、と認識した時には、力強い腕の中に囚われていた。
「佐奈子……」
耳に響いてくる切なげな、それでいて熱をはらんだ声。
さっき、うわごとで聞いたのと同じ声音だった。
熱の去らない体に密着させられ、訳がわからずにいるうちに、体をひっくり返された。