幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 その震えは、彼の唇が、私の唇から耳たぶ、首筋から鎖骨に下りていくにしたがって、強まっていく。いつの間にかはだけられていたブラウスから覗く、胸元にちゅっと口づけられた時、思わず小さく悲鳴を上げてしまった。

「ひっ」

「──嫌、か?」

 問うてくる昂士くんの目に、傷ついたような色が浮かんだ。

 彼の瞳の中に映る自分の顔を見ながら、少しの間考えた。
 ……違う、嫌じゃない。彼と、そういう行為に及ぶことは嫌ではない。

 問題は、他にある。

「ごめんなさい、……じゃなくて、違う、嫌じゃないの……そうじゃなくて、私」

 正直に言ってしまえなくて、目をそらす。

 しばしの沈黙の後、昂士くんが「もしかして」と何かに気づいたように言った。

「……初めて、とか?」

「……」

 声に出す勇気は出なくて、代わりに小さくうなずく。

 きっと、呆れられている。来月30歳になる女が、未経験だなんて。

 こわごわ視線を戻すと、昂士くんは右手で口を押さえ、何かをこらえているように見えた。目線は私の顔から外されている。

「……おかしいよね、この年で初めてなんて」

「いや、そんなこと思わない」

 自嘲の言葉を、予想もしなかった強い調子で否定された。

「おかしくない。──むしろ、嬉しい」
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