幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 7時半が近づく。もうすぐ私の出勤時間だ。
 そういえば昂士くんもまだ家にいる。今日は急がなくてもいいのだろうか。

 口紅を直して玄関に向かおうとすると、彼がコートを羽織り始めた。

「もう出るよな。送るよ」

「……え?」

 送る、というのは車で送っていくということだろう。当然だけど、今までそんなことをされた日はない。再会した日に駅まで送ってもらった時を除けば。

「ほんとは体、ちょっと辛いんだろ?」

「……」

 気づかれていたのか。あるいは、経験からそう思ったのか。
 自分の中に浮かんだ考えに、複雑な気分になる。

 そんな気分になることに、また戸惑った。昂士くんがこれまでに誰と付き合ってきたとしても、私には関係のない、口出しする権利のない事柄なのに。

「慣れないことしたんだから当たり前だ。そんな女を満員電車に乗せるために見送れない」

 なぜか少し怒ったように彼が言う。尋ねた時に私が正直に言わなかったことが、不満なのか。

「それにあんまり寝てないだろ。車の中で、ちょっとでも寝とけよ」

 確かに、ベッドに寄り掛かって2時間ほど眠ったのと、行為の後で3時間ぐらい眠っただけだ。そのわりには眠気を感じないけど、体は確かに、まだちょっと辛い。
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