幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 中学、高校へと上がるにつれて、さすがに私たちも、樹山と自分たちの住む世界に違いがあることを、薄々ながら感じざるを得なくなっていったけど。

「なんか食いたいものある? それか行きたい店」

「特にない。今だとどこも混んでるでしょ、適当でいいよ」

「んじゃ、任せてもらっていいか」

 一瞬迷ったけど「……ん、お任せする」と返す。
 なんとなく、普段行き慣れないような所へ連れて行かれる気がしたのだ。

 そしてその予想は当たった。
 車が入っていったのは、名前しか知らないような高級和食店に隣接する駐車場だった。
 いかにも老舗です、といった和風建築の看板を上目遣いで見ながら、おそるおそる尋ねる。

「……ここって、いくらぐらいするの?」

「気にすんなよ。俺が誘ったんだから、奢るぐらいする」

 何でもないように樹山は答えた。奢る、と言ってもファミレスとかで奢るのとは桁が確実に違うだろう。そんな鷹揚さはさすが「お坊ちゃん」だと思ったが、だがしかし。

「そんな、悪いわよ」

「いいって。会員だから安くしてもらえるし」

「安くったって……」

「今の気分だったら落ち着くとこの方がいいだろ。違う?」

 問われて、はっとする。
 確かに今はまだ、さっき思い出した胸の痛みが去り切っていない。静かで落ち着く場所に行きたい、という思いがないではなかった。
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