幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
車が見えなくなると同時に、おそるおそる振り返る。
3人それぞれが、個々の好奇心を浮かべた表情で、私を凝視していた。
朝の冷たい空気の中、沈黙を破ったのは六旗さん。
「穐本さんおはようございます。今の車って『保険メルカート』の樹山マネージャーさんのですよねっ?」
彼がここに来る時、社用車だけでなく、何度かは自分の車を使って来ていた。六旗さんは車に興味があるらしいから、ナンバーも含めて覚えていたらしい。
「なんで穐本さんが樹山さんの車に乗ってご出勤なんですか。そんな仲なんですか。もしかしてゆうべ、お泊りしちゃったりしたんですかっっ!?」
矢継ぎ早に尋ねられる内容は、どんどん飛躍していく。
あながち間違いとは言えないだけに、かえって即答ができない。
興奮する六旗さんを、平川さんが私から引きはがす。
「落ち着けよ、菜々美」
「穐本さん、樹山さんとプライベートで知り合いだったのか?」
永森さんに心底驚いた顔で質問される。何度となく行われた打ち合わせの席でも、それ以外の時にもまったく言ったことがないから、それは当然だろう。
適当なことを言ってごまかせるほど嘘が上手くはないし、ある程度のことは今、打ち明けておくべきなんじゃないのか。頭の中の自分がそう結論を出した。