幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 顔を赤くした私を、彼はどこまでも気遣わしげな表情で見ている。

「……さ、さすがにもう、何ともないわよ」

「そっか、よかった」

 ちょっと激しくしすぎたから、などととんでもないことをつぶやいた。
 思わず周りを見回してしまったが、聞こえるような範囲には誰もいなかった。

「それで、今日はもう終われそう?」

「一段落、ついてはいるけど」

「なら帰る準備してきて。待ってるから」

 にっこりと笑まれて言われ、残業するつもりだった、と反論できなくなった。
 所内に戻り「今日はこれで失礼します」と永森さんに伝える。

「隅田さんの件は終わってる? 明日提出だよ」

「それは、何とか一段落してますので」

 話をしていると、平川さんと六旗さんが寄ってくる。

「あの車、アルファロメオだよな。さすが御曹司は乗ってる車も違うなあ」

「お迎えだなんて、愛されてますねえ。羨ましいなー」

「おいおい、比べないでくれよ」

 急いで帰る用意をして、事務所を出た。

 車に体を預ける格好で、昂士くんはタバコを吸いながら待っていた。そんな姿は、通りを行き交う車のライトの効果も手伝って、CMの映像か宣伝写真のようだった。

 こんな人が、仮にでも今は、私の夫なんだ──少しだけ誇らしい。
 あくまでも契約関係でしかないのは、わかっているけれど。
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