幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 駐車場に着いて車を降りようとすると「ちょっと待って」と制止の仕草をされる。
 なんだろうと思っていると、先に降りた昂士くんが助手席に回ってきて、ドアを開けた。

「どうぞ」

「……うん」

 差し出された手に、ちょっと躊躇してから、自分の手を重ねる。
 その手を、私が車を降りたタイミングで彼は、ぎゅっと指を絡めて握った。

 体温の高い肌の感触が、いろいろなことを思い出させて、恥ずかしさが湧き上がる。

「なんで、こんなことするの?」

「こんなこと?」

「迎えに来るとか、これとか」

 これ、で繋がれた手を振ってみせる。

 今までに、同じ時間に出勤することとか、二人で近所に買い物に行くこととかはたまにあった。けれどいつもは電車出勤で、しかも職場は逆方向だから最寄り駅で別れていたし、買い物の行き帰りに手を繋いだことなんてなかった。
 だから当然の疑問なのだけど、彼は「ああ」と何でもないことのように受けて、またにっこりと笑った。

「夫婦だから」

「……っ、それは契約、」

 契約のでしょ、と返そうとした唇を、指でふさがれる。

 そしてそのまま、唇をそっと重ねられた。
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