幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
けれど、そんなに、外から気分がわかるほどに、あからさまだったのだろうか。
「……私、どんな顔してた?」
「ホームで? なんか、この世の終わりって言ったら大袈裟だけど、希望が全部なくなったって感じ」
うわ、と思わず呻いてしまった。そんな顔を、あの時ホームにいた人みんなに見られていたのか。恥ずかしい。
「安心しろよ、今はだいぶマシだから。行こう」
と、樹山は先に立って店の暖簾をくぐっていく。観念して私も後に続いた。
そこだけで私が暮らしていたワンルームが入ってしまいそうな、広い玄関。入るのと同時に出てきた仲居さんが、目を見開く。
「まあ、樹山様。ようこそいらっしゃいませ」
「こんにちは。離れ、取れますか」
「ええ、空いておりますよ。女将を呼んでまいりますのでお待ちください」
ほどなく、鈍い赤色の着物を着た年配の女性が、奥から姿を現す。
「樹山様、ようこそお越しくださいました。お久しいですね」
「お久しぶりです。いつものコース、二人分で」
「かしこまりました。さあ、どうぞお上がりくださいませ」
樹山は慣れた様子で靴を脱ぎ、仲居さんに預ける。少々おどおどしながら、私も同じようにした。
長い廊下を、建物の奥へ奥へと進んでいく。