幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。
【第6章】契約破棄、そして新たな約束
「浮かない顔しているね、どうかした?」
「え、あ……すみません。この頃よく眠れなくて」
現場で平川さんに尋ねられ、そう言い訳した。後ろめたい気持ちはあったが、嘘ではない──言っていないことがあるだけ。
もしかしてアレのせいかい、と小声で言って、平川さんは前の二人を指差す。言うまでもなく野々原先生と中邑さんだ。ギリギリの距離を空けてはいるけれど、二人が話す姿は上司と部下の仲の良さとは違う、独特の雰囲気を醸し出していた。
それが周りには筒抜けであることを、おそらく二人だけが気づいていない。
「ええ、まあ……」
「やっぱあの二人、そうなのかな。俺も胃が痛いよ」
「わかります」
「二人とも、静かに」
右横にいた永森さんにたしなめられる。
今は、山根沢邸の棟上げ式が始まろうとしているところだ。
広いのと施主こだわりの特別仕様のため、通常より基礎工事に日にちが費やされたが、ようやく棟上げ式のできる状態になった。
だから当然、今日は山根沢氏も来ているというのに、先生と中邑さんの態度にはさらに遠慮がなくなってきている。中邑さんはともかく、先生は、氏の結婚にまつわる事情を知っているだろうに。
山根沢氏に伝わらないよう、二人がもっと配慮すべきなのに、なんで私たちが胃の痛む思いをしなければならないのだろうか。