幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 そうでなくても、今は胸につかえることのある状況なのに。
 胃のあたりをこっそりさすりつつ、棟上げ式を乗り切る。

 式が終わったのは日も傾きかけた頃で、山根沢氏や先生たちが「明日からもよろしく」と言って引き上げていく。ようやく、ほーっと肩の力を抜いて息をついた。
 永森さんと平川さんも顔を見合わせて、「お疲れさまです」と重々しく言う。
 ちなみに六旗さんは、今日は留守番で事務所に残っている。

「ご苦労だったね、二人とも。今日は早く上がるかい?」

「あ、俺は他の件の見積もりがあるんで、事務所に戻ります」

「穐本さんはどうする?」

 昂士くんの出張は明日までだ。だから今日は駅に迎えには来ない。
 ある意味、ちょうど良いタイミングでは、ある。

「えーと、じゃあ今日は上がります。よろしければ近い駅まで送っていただけますか?」

 了解、と永森さんが受けてくれ、付近の駅まで車で送ってくれた。
 車が去っていった後、駅前にあった薬局に飛び込み、ある物を初めて購入する。
 電車を乗り継ぎ、マンションの部屋に着くまで、気が気でなかった。

 そして、帰ってすぐにお手洗いに駆け込み、必要なことをして待つこと数分。
 ──妊娠検査薬の結果は、はっきりと「陽性」を示していた。
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