幼なじみと契約結婚しましたが、いつの間にか溺愛婚になっています。

 もちろん、検査薬の結果は100%ではない。
 けれどかなり精度は高いはずだ、と思う。

 それに、心当たりもある──1ヵ月ちょっと前の旅行で、露天風呂に入った時。あの時は場所が場所だったし、避妊をしていなかった。
 その後の、部屋でのセックスでも……3回目か4回目かの最後の方は、彼は避妊具を着けていなかったかもしれない。ひどく疲れて頭がぼんやりしていたから定かではないけれど。

 加えて、疲れや心労のせいだと思っていた最近の体調を考え合わせると、なんだかもう間違いないような気がしてくる。

「……どうしよう」

 大きな不安に襲われてつぶやくと、そのタイミングで、玄関ドアの開く音がした。
 文字通り、便器に座ったまま私は飛び上がる。

「ただいまー。……佐奈子、まだ帰ってない?」

「お、お帰りなさい。帰り明日じゃなかったの?」

 トイレから慌てて出ると、昂士くんが玄関を上がってくるところだった。

「仕事が意外と早く終わったんだ。──どうかしたのか?」

「何が?」

「顔が青い」

「そ、そう?」

 さりげなくトイレのドアを閉めたことを、怪しまれませんようにと祈っていた。慌てたあまりに、まだ、検査薬をサニタリーボックスに入れていない。
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