俺にしときませんか、先輩。
病気のことなんてなにもわからなくて、覚悟なんてそんなもの、身に纏っていたわけでもない。
大人の父さんでさえ、心臓の停止を告げる無機質な機械音に凍りついたように動かなくなって。
俺はただ、慌ただしく入ってくる看護師さんたちを、悪くもないのに睨んでいることしかできなかった。
ドアを開ければ、ぱぁっと笑顔を向けてくれる母さんのいる病室が好きだった。
もういないんだと知らせるように、綺麗に片付けられた母さんのいた病室が嫌いだった。
矛盾も葛藤もぐちゃぐちゃで、心の整理なんてできないまま、母さんいなくなっちゃったんだろ、と無神経に言ってくるクラスの悪ガキと毎日のように喧嘩をするようになった。
予想もしてなかった別れ。
それまでの日々が嘘のように、父さんも姉ちゃんも悲しげな顔を浮かべて。