俺にしときませんか、先輩。
「サナちゃん、ちょっと待っててね、今、絆創膏持ってくるから!」
袖が捲り上げられた姉ちゃんの腕には、軽いすり傷があって。
つま先で立ってようやく届く救急箱を忙しなく玄関まで運んで。
姉ちゃんの友達?
微々たる好奇心で近づくと、ばっと顔をあげた瞳と目が合った。
靴は濡れていて、白い服は泥だらけ。
姉ちゃんの何倍も傷のできた身体で、唇を精一杯噛み締めてどうにか泣かないようにしている。
「ちょっとしみるからね」
「っ、へ、へーき!」
「もうサナちゃん、なんであいつらに喧嘩売ったの!」
「だって沙葉の机に悪いこと書くんだよ、許せないっ」
どうやら、いじめっ子たちを成敗してきたらしい。
姉ちゃんいわく、母さんのことでいろいろ言われた時、真っ先に盾になってくれる友達で、後先考えないのに腕っぷしは非常に脆いとか。
なんなの、この人。
こんなにボロボロになって。
弱いなら、喧嘩しなきゃいいのに。
「だ、だれ…?」
「紹介するね、サナちゃん、弟の由都だよー」
「あっ、私、芙紗奈っていうの、よろしく!」
それが、先輩とのはじめての出会いだった。