俺にしときませんか、先輩。
「今から私と勝負ね」
「はあ?」
「好きな絵描いて、しょーぶ!」
よーいどん!と自分だけ黒い芯を走らせる。
その姿に最初は呆れていたのに、気づいたら、負けるもんかって、俺も鉛筆を握りしめていて。
思い出の欠片を集めた記憶と拙い手で精一杯描き上げたのは、
「うわー、すごい、かわいい人!」
「…っ」
笑顔の母さんだった。
びっくりするほど似てないのに、出来上がった絵に熱いものが込み上げて、それが波のように押し寄せて喉の奥を刺激する。
ぽた、と。
一粒、二粒、滲んでいく絵が身体の内側から俺を慰めているようで。
この時、はじめて、母さんはもう心のなかにいったんだと認められた瞬間だった。
「わっ、ちょっと、泣かないでよ…。暗い顔してるから笑わせようと思ったのに」
私の負けでいいから泣かないで、と。
自分の変顔を描いた画用紙を右手に、俺の涙を拭おうとして差し出してくれたティッシュを左手に。
たぶん、そこからだと思う。
先輩にどうしようもなく惹かれていったのは。