俺にしときませんか、先輩。
月日が流れて中学生になった頃には、姉ちゃんも父さんも俺も、ちゃんと前を向いて過ごせるようになっていた。
当時の俺は、今より奥手で。
先輩に片想いという状況を、どうにかしたいと思っても、その術を持ち合わせていなかった。
想いを自覚した瞬間から、恥ずかしさを隠すように敬語を使うようになったり。
髪も背も伸びて魅力的になっていった先輩は当然、男からの好意も途絶えなくて、俺の知らない間にできている彼氏に嫉妬したりもして。
だけどそんな自分にも『告白』という決心をつけた日があった。
「あれ、由都じゃん」
「…先輩」
「今、帰り?」
「はい」
あの日、偶然重なった帰り道が、俺をいつもより大胆にさせた。
花の上で寝そべっている蝶々を眺めていたら、チャイムを聞き逃して授業に間に合わなかったとか。
弁当を急いで食べてしまってお腹の調子が少しだけ悪いとか。
難しい問題で当てられないように必死に目を逸らしてたら、なぜか当てられてしまったとか。