俺にしときませんか、先輩。

こんなにそわそわ落ち着かない日はない。

約束の場所でそう思いながら、高揚する心を抑えて踵を地面にピタッとくっつけていた。



けれど、20分くらい過ぎた頃、少しおかしいと思いはじめて。

先輩、まだかな…と昇降口の方へ目を向けたのがいけなかった。



「……っ、」


先輩と知らない男が一緒に出てきて。

視線を落とした先で、繋がれていた手に、まず驚いた。

動けないでいる遠くで、先輩の頬にキスする場面を見てしまった俺は、とっさに目を逸らして近くの壁に身を寄せる。

そうやって、バカみたいに隠れることしかできなかった。




……なんで。

彼氏いないって昨日言ってたのに。

なんで…。その人、誰なんですか。



今日唐突に付き合うことになったとは思えないほどの空気間。

先輩にとっては俺の質問なんかどうでもよくて、適当に今は彼氏はいないと答えたんじゃないかとか、そんなことまで頭をよぎって。
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