俺にしときませんか、先輩。

それから俺は、先輩を避けはじめた。


姉ちゃんの部屋に遊びにくると、決まって聞こえてくる先輩の話に耳を傾けたりするのもやめて。

どころか、遊びにくる先輩となるべく遭遇しないように、けーすけたちと遊びまわって、家にも遅く帰るようになった。


どうしていいか、わからなかった。


確実に顔を合わせる回数は減ったのに、一向に頭から消えてくれない先輩。

それでもなにもできずに、高校生になった。


会いたくないのに、会いたくて。

話しかけたくないのに、話しかけてほしくて。


絵が好きな先輩を思い出して、なんとなく美術室に寄ったあの日。



「っ、え……」


浮気現場を目撃した先輩に声をかけた。


好きな人の傷ついている表情を見たあの瞬間、今までの臆病さを丸ごと取っ払ってしまいたい気分になって。

先輩が幸せじゃないなら、笑顔じゃないなら、それなら俺がそうさせるんだって。
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