俺にしときませんか、先輩。


「もう彼女ヅラはうんざりなんだよ」


冷たく吐き捨てる蒼真を横目に下を向く。



「なんとか言えよ」

「…やめて」



……お願いだから黙って。

喋らないでよ。


もうすぐそこでスタンバイしている光景に目を閉じてしまいたくなる。

ガヤガヤし始める周り。

ヒソヒソ話す声。



「浮気されたってこと?」

「しかも同じクラスって」

「ひどい」

「芙紗奈ちゃん、またじゃん」

「ちょっとカヨコ」

「かわいそうだよ」



やめてほしい。

近寄ってくる、いつもの子たち。


大丈夫?って聞かないで。

哀れんでいるつもりの、その視線を向けないで。




「芙紗奈ちゃん」

「っ、…」


悲しげな表情を作って、優しく触れてこようとするモエちゃんの左手から逃れるように立ち上がる。

少し先で目が合った篠崎くんが、私から視線を逸らす。

縫い付けられたように動かない足に心音だけが焦っている隣で、ふっと気配がして。



「大丈夫ですよ」


聞こえたその声に、なぜかひどく安心した。


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