俺にしときませんか、先輩。
「先輩には俺がいるんで」
みんなの前でそう宣言して、私の前を覆う影。
正面を見なくても、わかった。
それが由都だと。
「遅かったんで、迎えに来ました」
寄り添うように落とされた、どこまでも優しい声色に、どうしてか泣きそうになる。
それを堪えて顔をあげれば、やっぱり優しい瞳が私だけを映して笑ってくれた。
「だれ、あれ」
「私、見たことある」
「1年生じゃん」
由都の登場にさっきとは別の意味でざわざわしだす教室内。
そんななか、ひとりだけ勝ち誇ったような笑みを浮かべている蒼真。
やばい、まさか、蒼真、余計なこと…
「そういや、俺たちだけじゃないよな。おまえだってそいつと浮気してたんだから」
「っ、ちがう!」
嫌な方向に矢印が向いてしまう。
放たれた矢が真実でなくても、みんなどうでもよくて、一時でもそれを話題にしたいだけ。