俺にしときませんか、先輩。
わざと人の少ないルートを選んでくれて、やっと辿り着いた下駄箱。
靴を履き替えて外気を吸い込むと、呼吸がゆっくり安定した。
「…あ、あの、由都…」
「先輩、今日は恋愛相談やめて、先輩の好きなことしましょう」
「…え」
「このまま家に帰りたいなら送りますし、ほかになにかしたいなら付き合います」
……なにも聞かない。
どんな言葉も言う必要なんかないと、ただ私の好きにしていいと、そんなふうに配慮されて、優先されるのなんて慣れてなくて、思わず身が縮む。
「…由都は優しすぎ」
「そんなことないです」
そんなことある。
今日は水曜日で約束の日。
私がモタモタしていて遅れたから迎えに来てくれて。
喉元が震えてうまく立ち向かえなかった代わりに由都が私を連れ出してくれた。
これが優しさじゃないなら、なんだというのか。