俺にしときませんか、先輩。
それに、
「あんなこと言って、大丈夫なの?」
「あんなこと…?」
「私に気持ちがあるって、ぜったい勘違いされてるよ。由都、好きな子いるのに、ごめんね」
私のことを考えて美術室にいたとか、私に片想いだとか、あの場で咄嗟についた嘘だってことは、もちろんわかってる。
だからこそ、申し訳ない。
「そんなこと気にしてたんですか?」
「え?」
「先輩が悪く言われないなら、それでいいです」
偽りなんてひとつもない顔。
灰色の建物が囲うなか、目の前だけが色付いたように、由都の瞳にしか目がいかなくなる。
由都がさりげなくくれる当たり前は、私にはどれも大切にしたいくらい初めてで。
どんな表情をすれば感謝が伝わるのかすらもわからない私の前で、ただ、ふわりと笑いかけてくれる。
そんな由都を、純粋に、かっこいいなって。そう思った。
しばらく歩くと、いつもの駅が見えてきて。
そうだ、先輩と、隣を歩く足がふと、止まる。