俺にしときませんか、先輩。
うじうじとベンチで泣くなんてできなくて、立ち上がった私に由都が数歩分後ろからついてくる。
「なんで俺がバカなんですか」
「なんでもよ」
「……先輩、ちょっと前から思ってましたけど、俺のなんでもって返し、使わないでください」
「いーじゃん、使わせてよ」
「…じゃあ、いいですよ」
いいんかい、なんてツッコミながら。
女がひとり泣き顔で、その少し後ろを追う男っていう、奇妙な構図ができあがる。
今回は沙葉にも打ち明けられなかった浮気話。
それをこうして、沙葉の弟に助けてもらうなんて思いもしなかった。
道路上を揺らめく影が私を和ます。
女子の涙には慣れていないのか、困っている由都はなんだか面白くて。
それでも、下を向いている私が誰かにぶつからないように、時々、無言で袖を引いてくれる手は、やっぱり際限なく優しかった。