俺にしときませんか、先輩。

うじうじとベンチで泣くなんてできなくて、立ち上がった私に由都が数歩分後ろからついてくる。



「なんで俺がバカなんですか」

「なんでもよ」

「……先輩、ちょっと前から思ってましたけど、俺のなんでもって返し、使わないでください」

「いーじゃん、使わせてよ」

「…じゃあ、いいですよ」



いいんかい、なんてツッコミながら。

女がひとり泣き顔で、その少し後ろを追う男っていう、奇妙な構図ができあがる。




今回は沙葉にも打ち明けられなかった浮気話。

それをこうして、沙葉の弟に助けてもらうなんて思いもしなかった。



道路上を揺らめく影が私を和ます。

女子の涙には慣れていないのか、困っている由都はなんだか面白くて。

それでも、下を向いている私が誰かにぶつからないように、時々、無言で袖を引いてくれる手は、やっぱり際限なく優しかった。



< 130 / 214 >

この作品をシェア

pagetop