俺にしときませんか、先輩。
瞳を細めて考えを絞り出そうとしていたのに、このタイミングで最悪の事態が起きてしまった。
ひとつ席を挟んだ向こう側で話しかけられた蒼真がげっ…というように一瞬眉をひそめたのがわかる。
「この間のデート、どこ行ったの?」
…お願いだから変なこと言わないで。
内に秘めた思いが伝わったのか、わずかな沈黙のあと、蒼真がぽつりと呟いた。
「…いえ」
は…と思った時にはもう遅い。
きゃーーって、黄色いざわめきが教室内に響きわたる。
「もうっ、やだ、蒼真くん、そういうのさらっと言っちゃうタイプ?」
「いいなー、モエも今度、彼氏とお家デートしよー」
前からも後ろからも好奇の目線。
家って……もうちょっと言い方あったでしょ!
そりゃあ、別れたことを内緒にしてほしいって言ったのは私だけどさ、話がとんでもなくややこしい方向に行ってるって、ぜったい。