俺にしときませんか、先輩。


そこからは、どうやって抜け出したのか。


上から落ちてくるぬるい水滴。

キィ…という機械音と悲鳴。

長い髪から手が出てきて追いかけられたのも、ぜんぶ。

おでこに唇が衝突したアクシデントと、それによって意識しないようにしていた結んだ手のせいで、記憶があやふやだ。





ようやく最後の黒いカーテンをくぐると、ぱちぱちとミラーボールのようなものが点滅して、淡いオレンジの光が灯った。


『ゴールおめでとう!』の垂れ幕の下にあるボックス箱。

その横の感想アンケートにご協力を、と書かれた紙に手を伸ばす由都。



「先輩、これ書きますか?」

「…かかない」



まだ薄い明かりのおかげで、赤い顔はバレてない。

早くここから出ないと。



ドアに手をかける。


「待ってください」


そのまま力を入れようとしたのに、私の手を由都が遮った。
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