俺にしときませんか、先輩。
予行デートの時に『ばあばのふんわりぱん』でパンを買って、先輩を喜ばせることができたのも、事前に知っていたからで。
文化祭だってそう。
先輩はお化け屋敷とか、そういうものに怖がることはなくて、むしろ得意な方だということも知っていた。
これは俺が先輩を好きになって、家に遊びに来た時に姉ちゃんの部屋で交わされる会話を聞いて覚えたこと。
これ以外にもたくさん知ってる。
それを利用して、俺だって怖いものが苦手なわけでもないのに、先輩と手を繋ぐ口実にしたり、俺ってようは、なかなかにずるいやつなんだと思う。
ああいう、見返りなんて求めませんっていうような、篠崎さんみたいなタイプではない。
俺は少しでも先輩に気に入られたいし。
俺のこと見てほしいし。
あわよくば、好意だって向けられたい。
先輩の好きなものや特徴、そんな知識だけ、指じゃ数えられないくらい蓄えて、行動では思うようにいかない、無能なバカ。俺はそういうやつ。