俺にしときませんか、先輩。

自分の教室に戻ろうと階段を目指して歩くと、あのさ、と低めの声に呼び止められた。

振り返ってみて少しびっくりしたのは、声をかけてきたのが、さっきまで見ていた篠崎さんだったから。



「もしかして、朝浦さんとなにかあった?」

「はい?」

「なんか少し前から元気なくて、理由とか、わかったりするかな?」



え……。
先輩が元気ない?

…なんか、あったのかな。



「すみません、ちょっとわからないです」

「…そっか」


結局、俺はわかっているつもりで、先輩のことをなにも知らない。



「朝浦さんとのこと、ちゃんと考える気がないなら、僕も引いたりしないから」

「…は?」

「傷つけるなら、中途半端に近づかないでね」



突然、意味不明な宣言をされて、思わずたじろぐ。

次、会った時に牽制しようと思っていたのは俺なのに、それが逆になったのは、なんだか気分がよくない。



……ていうか、先輩、本当になにがあったんですか…。

あー……聞きたいのに、聞けない。



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