俺にしときませんか、先輩。






「由都くん」


考えることを放り投げていた昼休み、ここ最近、前よりやけに話しかけてくる水戸に、またか、という視線を向ける。



「あのね、映画のチケットいっぱい持ってるんだけど、由都くんどれか興味ない?」

「ない」

「見てから答えてよ、ね?」



廊下を歩いている俺の前に4つのチケットが見せびらかされる。

なんでこんなに持ってんの?

そんな疑問が浮かんでくるけど、問題はそこじゃない。



「これ選んだら、ふたりで行こうって?」

「…あー、ばれた?」


照れくさそうに笑う水戸。

こんなにあからさまに話しかけたりしてくるけれど、水戸はそれ以上俺になにも言わない。

だから俺もどうすることもできずに、ただ、期待はさせないように振る舞ってきた。



なにも言わずに水戸を見てみる。

…どうしたの?と少し戸惑ったように目を逸らした水戸の頬にあるほくろ。

それにはじめて気づいた俺は、まともに水戸の顔すら見てこなかったんだろう。
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