俺にしときませんか、先輩。



かち、こち、かち……。

時計の秒針が際立って。


静けさに染まっていく室内で、私たちは、お互い、まだ、目を逸らしてはいない。



ほんとになんで、こんなことしてるんだろう。




「……っ、」


いち、に、とおとなしく数えることに専念していた私の数字は、突然、組みかえられた手によって曖昧に溶けた。


「俺、こっちの方が好きかも」

「っ」


……喋るのアリなんて聞いてない。

しかも、由都のたぶん親指が私の手の甲をくすぐるように滑る。

私の手で遊ぶなっ。



ずっと繋いだままの手は、ふたりの熱で温度が変わっていく。

こういうゲーム特有のドキドキに胸の内が支配されて。

……このままじゃ負ける。
そう思った私は、今度はこっちから指先の力ぜんぶを使ってぎゅっと握り返した。



「……、」


瞬間、なぞっていた親指が動きを止めて、由都の瞳が微かに揺れる。



30秒ってまだかな……と少し焦っていた私に、甘さをはらんだような低音が落とされた。




「俺の負け」




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