俺にしときませんか、先輩。
「おまえさ、浮気されて悔しいのはわかるけど、そういう嘘はみっともねえって」
そんなの……わかってる。
でも、このまま背を向けなきゃいけないなんて、そんな惨めになるのは、いや。
ケタケタ肩を揺らして笑っているふたりを前に、本気でどうしようか悩んでいた直後だった。
「嘘じゃないんですけど」
荒々しく、美術室のドアが開いたのは。
瞬間、そこにいる全員が、もちろん私も含め、一斉に振り向く。
「どうも、先輩といいかんじの可愛川(えのかわ)由都(ゆと)っていいます」
「っ、え……」
驚きすぎて固まってしまう。
だって、美術室から出てきたのは、全くの他人なんかじゃない。
親友の弟だったから。