俺にしときませんか、先輩。
「どうしました、先輩」
「は、」
「俺、ここで待ってるって伝えましたよね?」
作られた話に、あんぐり口を開ける私。
「なんだよ、マジで男いたのかよ。
好都合じゃねえか。俺たちも行こうぜ」
「まって…」
突然の人物に思考が停止しそうになったけど、そのまま去ってしまいそうな彼、矢野(やの)蒼真(そうま)に視線を戻す。
「なんだよ」
「…クラスのみんなには別れたこと、まだ気づかれないようにして」
「は?なんで…」
「今日はデートしてるってみんな思ってるし、そっちだって、浮気したこと、広まってほしくはないでしょ?」
サッカー部のビジュアル担当、矢野蒼真。
学年一人気とまではいかなくても、クラスのなかでは間違いなく、有名ポジションにいるんだから、悪いイメージはついてほしくないはず。
「…わかったよ」
短いその返答に、ほっと一呼吸。
今度こそ帰ろうとする直前、浮気相手がこっちを見る。