俺にしときませんか、先輩。
紙袋に印刷された『ばあばのふんわりぱん』の文字。
仲睦まじい老夫婦がやっている小さなお店。
いつだったか、一緒に帰っていた頃の蒼真やその前の彼氏に、小腹が空いてそのお店でパンを買おうと言うと、駅のなかに有名店があるんだからそっちにしようって言われたのを思い出す。
たしかに駅のなかにはパンの名店があって、そこが大人気なのは知ってるけど、個人的には、駅の斜め手前にある『ばあばのふんわりぱん』の方が好きだった。
「先輩…?」
生地は手で裂けるような柔らかさで中身はぎっしり詰まってる。
焼きたてなんか、そりゃもうほくほくで、
「大好きなの」
「……え、」
「ここのパン」
「……あー…」
由都もここのパン屋さん好きなの?って聞こうとして視線を上げると、
「わ!由都、顔あかっ」
走ってきたからか、遠目だと気づかなかったけど、由都の顔は赤らんでいて。