俺にしときませんか、先輩。


店内を見回りながら、体感5分ほど。


距離の近いふたりに、さっきから呪文のように『俺は大人』って繰り返している。



「これとかどう?」

「うわ、綺麗」

「ね!」



ね!じゃないです、先輩。

いちいちその人を振り返って笑わなくてもいいのに。



「でも、さっきのもよかったな」

「あー、ネックレス? あの色のバランスよかったよね」

「うん」



どれでもいいから、決めてくれ。

頭のなかで湧き出る文句。


そもそも今日は俺とのデートなのに。

なんか食べて帰ろうと誘ってきたけーすけと大雅にも先輩と一緒に帰ることを話した。

ふたりにはニヤニヤした顔を向けられたけど、俺は冷静に返したつもりで。

それでも、ちょっとくらいはそわそわしていた、先輩とどこ行こうとか考えたり。



……それなのに、なんでべつの男の隣にいんの。



不機嫌が通じたのか、ふたりがやっとレジに行く。

決まったのはネックレスらしい。




「ありがとう、付き合ってくれて」

「お母さん喜ぶといいね」

「うん」



交わされる会話に早く終わらないかなって思っていると、遠慮がちにプレゼントの入っている袋から取り出された、ひとつの個包装。



「あの、これ…」

「ん?」

「真剣に選ぶの手伝ってくれたから、そのお礼に」

「え、ピン? かわいいー」
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