俺にしときませんか、先輩。
それってさ、私の前で言っちゃだめでしょ。これは予行で、本番じゃないんだから。
ちゃんと好きな子と、水戸さんと楽しまなきゃ。
そう思うのに、ストレートに響いた胸の内が勝手に嬉しくなってしまって、ちょっと困る。
私の話に由都が笑って。
由都の話に私も笑って。
足を揃えたベンチの上で、帰りたくないなあ……なんて、珍しく思う。
「先輩」
呼ばれて視線を移すと、身体の向きを少しこっち側に傾けた由都が私をまっすぐ見て言った。
「俺、帰りたくないです」
「……」
ジリ、と僅かだけ動いたのは私の指。
音がぜんぶ遠ざかっていくように耳にもやがかかる。
「聞いてます?」
「…うん」
「……先輩って、どうしたらときめくんですか」
「え?」
「俺、帰りたくないって言ったんですよ。そういうの、ふつー、グッてこないんですか?」
「あ…」