セカンドマリッジリング ―After story—

「想像していたよりも反対もされなくて、すんなりと許してくれたわね。ちょっと意外だったけれど」
「そうだな、兄さんが行方不明になったのは予想以上に父にとって都合の悪い事だったんだろう。もしかしたら父さんも、会社で起こっている事にうすうす気が付いてるのかもしれない」

 父の斗真(とうま)は決して鈍感な男ではない。もしそうならばここまで深澤(ふかさわ)カンパニーを成長させることなど不可能だっただろうし、あっという間に社長のイスから引きずり降ろされていたはずだ。
 厳格で自分にも周りにも厳しい男だが、企業の経営者としての手腕は間違いなく一流だろう。

「そうかもしれない、だったらなるべく早く計画を実行に移す必要がありそうね」
「ああ、病院には上手く話をつけている。少し休みを多く貰えそうだし、準備が出来ればすぐに花那(かな)にも協力してもらうことになる」

 帰りの車の中で、これから先の事についてしっかり話し合う。些細なミスも計画を左右してしまう以上、こういった密な打ち合わせは欠かせない。
 少しだけ完璧主義なところのある颯真(そうま)は、それも大事なことだと頭の中で何度も繰り返し計画を再確認する。そんな彼の隣の席で花那が小さな声で何かを呟いた。

「もしも、私が颯真さんの役に立つことを証明出来たとしたなら……」
「……え? 今、なんて」
「いいえ、何でもないの。独り言だから、気にしないで」

 すぐに花那にそう言われて、颯真はまた車の運転に集中したのだった。


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