セカンドマリッジリング ―After story—
「颯真さんにはまず涼真さんのやっていた簡単な作業から覚えてもらいたいと思ってるんですが、それでよろしいですか?」
「はい、遠慮なくビシビシ教えてもらって大丈夫ですから。なるべく早く、色々覚えておきたいんで」
ある程度、仕事を覚えなければターゲットに近づくのも不自然に見える可能性がある。少しでも怪しまれないよう、颯真は涼真の代理として覚えなければならないことがたくさんだった。
そんな颯真を支えるために花那も出来る限りのサポートを高峰から教わっていく。二人の様子に高峰は感心すると同時にとても複雑な気持ちを抱えていた。
「貴方達なら、涼真さんが戻らなくてもきっとこの会社を……いえ、何でもありません」
「高峰さん、兄さんはここに帰ってきます。必ず俺たちが、高峰さんの所に戻してみせますから」
颯真は分かっている、高峰が本当は涼真が戻ってくるのをずっと待っていることを。そうでないのなら、きっと彼はこの会社に残っていないはずだから。
涼真が行方不明になって、高峰にとってここは針の筵のような場所だっただろう。それでも辞めたりせずに、こうして颯真の力にもなってくれようとしている。
そんな高峰にはちゃんと伝えておきたかったのだ、涼真の本心を。
「……颯真さん、ありがとうございます」
「だから、待っていてあげてください。ここで、兄さんを」
「……はい、そうさせて頂きます」
少し涙ぐんだような返事が聞こえてきたが、颯真と花那はそれに気付かなかったフリをした。