セカンドマリッジリング ―After story—
感じの悪い嫌な男だ、兄の涼真に聞いていた通りだと颯真は思う。こんな男をどうして父の斗真は専務という立場にしたのだろうか、徹底した実力主義の彼の人選とは思えない。
そういえばだいぶ前に、誰からか聞いたことがあった。父のやり方を良く思っていない親族達が悪い噂のある男を斗真に掛け合い、強引に役職に就かせたという話を。
……もしかして、それがこの伊敷という男性なのだろうか?
「それにしても、話には聞いていたが随分美人だな。金目当ての卑しい女らしいが、思っていたのよりも悪くなさそうだ。クククッ」
「……誰からそんなことを? いえ、そんなことはどうだっていい。事実でもない事で妻を侮辱したことを、今すぐ謝って頂きたい」
話の出どころなど簡単に想像がつく、きっと花那の事が気に入らない颯真の母や妹の真由莉が話して広めた事だろう。
だが、問題はそこじゃない。颯真にとって腹立たしいのは、花那の事を何も知りもしないくせに彼女に侮蔑の言葉を吐いた伊敷の方だった。しかもこの男はあからさまに、妻の事を邪な目で見ている。それも許しがたかった。
「ほお? たかが代理の分際で専務の俺によくそんな口を聞けるものだな。社長子息という立場なだけで、大した能力もないお坊ちゃんが」
「……妻に謝る気は無さそうですね。ではこれ以上用がなければ出て行ってください、ここに居座られても邪魔でしかないので」