セカンドマリッジリング ―After story—
玄関のインターフォンを押せばすぐにドアが開けられ、使用人と思われる女性が案内しようとするがそれを颯真は断り花那を連れて奥の部屋へ向かって歩いていく。
この屋敷で花那が入れてもらえたのは、奥にあるその部屋だけしかない。颯真が子供の頃に使用していた部屋さえも見せてはもらえていなかったのだ。
奥の部屋の扉を前で、颯真は立ち止まりノックして声をかける。
「颯真です、入っても大丈夫ですか?」
彼の言葉に反応したように、ドタドタと足音が聞こえ乱暴に目の前の扉が開かれた。中から顔を出したのは少し小柄な美しい女性、その瞳は涙で濡れ瞼は赤く腫れあがっていた。
「颯真! どうしたらいいの、涼真が! 涼真がまだ帰ってこないのよ」
「落ち着いてください、お母さん。俺はきちんと話を聞くためにここに来たんですから、とりあえず中に入れてください」
そう言った颯真さんの顔を見つめた後、彼の母親は今度は私を見て露骨に嫌な顔をする。その瞳が「貴女は何しに来たの?」と私に向かって問いかけてくる。家族の話に「深澤 花那」という人間は邪魔だと言いたいのかもしれない。
「颯真、あなただけ入るのよね?」
「いいえ、花那も一緒です。彼女は俺の妻、深澤の家の一員ですから」