セカンドマリッジリング ―After story—

「そ、颯真(そうま)さん!」

 きっぱりとそう言い切った颯真に花那(かな)の方が冷や冷やしてしまう。変にいざこざを起こせば計画が台無しになるかの所為もあるというのに、颯真の態度や言動はあまりに大胆で。
 自分の事でそこまで怒らなくてもと花那は思うが、彼はこれでも言い足りないという表情をしていた。だがそんな険悪な雰囲気のままでは良くない、そう思って花那が間に割って入ろうとすると……

「ああ伊敷(いしき)専務、こちらにいらしたんですね! 深澤(ふかさわ)社長がさっきの件に関してすぐに話をしたいとお呼びです、ですので……」
「チッ! どうせ面倒な仕事ばかりを押し付けるつもりなんだろう、私は来れないと適当に誤魔化しておけ!」

 忌々しそうに舌打ちをして、自分の立場を考えずそんなことを平気で言う。こんな男が上層部のメンバーだなんて正直信じられない気持ちだった。
 専務ともなれば責任ある仕事を任されるのは当然だというのに、それすらまともにやる気がないなんて有り得ない。それどころか、それを伝えに来た社員に平気で噓をつかせる気なのか?

「ですが……!」
「ええい、煩い。どいつもこいつも俺の神経を逆なでするような事ばかりしやがって! ああ不愉快だ、今晩はいつもの店に行くとマスターに連絡しておけ」

 捨て台詞のようにそう言うと、伊敷はドスドスと音を立てるようにして部屋から出て行った。申し訳なさそうに彼を呼びに来た社員が頭を下げたが、アレが上司では相当気苦労が絶えないに違いない。


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