セカンドマリッジリング ―After story—
「私だってお前に涼真の代わりが務まるとは思っていない。だがそれでもお前も深澤の人間には変わりない、それくらいは理解していると思っていたが?」
この屋敷で暮らしている間、颯真はいつもこうして兄の涼真と比べられ続けた。出来の良い涼真に颯真はどうしても追いつけず、そんな颯真に兄はこの家を出るように勧めてきたのだ。
『父や母の事は俺に任せて、颯真は好きな事をすればいい。夢を見つけて叶えて欲しい、俺の代わりに』
何度もそう言って、医学部に通いたいという我儘も反対する父や母を説得してくれた。そんな兄は颯真にとって父や母よりもずっと尊敬できる存在だったのだ。
「ならば尚更です、俺は兄さんが戻ってくるまで何年でも待ちます。彼の代わりに都合の良いお飾りにされるつもりもありません」
どんな状況になっても兄の居場所を奪うような真似はしたくない、颯真はそんな自分の気持ちをハッキリと父へと伝える。
一度自分が兄の立場に置かれれば、きっと涼真を次の代表取締役にしたくない重役などに利用されることが予想される。何でも出来る涼真より出来の悪い颯真の方が都合がいい、そう考えるものも少なくないはずだ。
……実際のところ、颯真はトップクラスの成績で大学を卒業し現在優秀な医師として働いている事は、ほとんど知られてはいないのだから。