セカンドマリッジリング ―After story—


 もともと面倒見の良いタイプでもある花那(かな)は、こうして甘えられたり頼られたりするのにとても弱かったりする。それも滅多にそういうところを見せてくれない颯真(そうま)だから、余計に。
 まるで子供がするように花那に甘えて見せる、そんな夫の姿が嬉しくもあり愛しくもなる。

 結局……出る時間ギリギリまで颯真は花那から離れようとはせずに、彼女を大いに焦らせたのだった。いざ起き上がってみると颯真はきっちりスーツを着込んでいたし、準備もすべて済ませていたから問題はなかったのだが。

「じゃあ、行ってくるよ」
「ええ、気を付けて」

 車に乗り込み、いつもと変わらない様子で颯真は仕事へと向かう。そんな夫を見送ってから花那はペンションの部屋に戻り、名賀(なが)夫妻の手伝いをするための支度を済ませた。

「おはようございます、何か手伝えることはありますか?」
「おはよう、花那さん。じゃあ来てすぐで悪いけれど、キッチンの手伝いをしてもらえないかしら?」

 美海(みなみ)は朝食の準備をしているようで、そう広くないキッチンの中を忙しそうに動いている。彼女の夫の名賀の姿は見えなかったが、花那は深く考えず美海の指示に従って調理を始めた。

「美海さん、すごく手際がいいんですね」
「そう? 毎日のことだからかしらね。でもそれは花那さんもだから、とても助かるわ」
 
 颯真は無理することはないと言ってくれるが、花那は記憶が戻ってなるべく彼の食事を自分が作るようにしている。結婚前は母との暮らしでそれが当然だったし、もともと料理をするのも好きなのだ。
 ……そんな花那の作る食事を、毎晩どれだけ仕事で遅くなっても颯真は喜んで食べてくれるようになった。


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