セカンドマリッジリング ―After story—
それが当たり前となったこの頃、花那や颯真にとって小さな幸せが詰まった日常。二人の家に早く帰りたい気持ちもあるが、花那のわがままで颯真を心配させるわけにはいかない。
そんな彼女の気持ちを察したように、美海は「大丈夫よ」と優しく声をかけてくれる。いつの間にか籠いっぱいに野菜をのせた名賀もキッチンの中に入ってきていた。
「今日は農家の婆ちゃんから蕪をたくさんもらったんだ、なんの料理にしようか?」
「へえ、いいわね。今度お礼にお菓子でも焼こうかしら? ふふ、あのお婆さんは甘いものが好きだから」
微笑ましい二人の様子に、心が温かくなる。居心地の良い雰囲気を作るのが上手な名賀と美海を見ていると、こっちに急に蕪を差し出してきた名賀に驚いた。
「花那さんなら何を作る? 一品君に任せたいんだ」
「え? 私が……」
慌てた花那に名賀は夕食のメニューに一品考えてほしいと頼んでくる。昼食だと颯真が食べられなくて悔しがるだろうから、というのだから花那も笑えてしまう。
どちらかと言えば貧しい生活に慣れていた花那は洒落たメニューは作れないが、それでもこのペンションに似合う料理をと蕪を持ったまま頭を悩ませた。
「……ふふ、上手くいったわね。花那ちゃんの頭の中は料理のことでいっぱいになったわ、これから毎日一品頼もうかしら」
「そうだな、余計なことを考える暇がなくなるのは良い。それに彼女の料理も楽しみだしな」
そんな会話を二人がしているとは、考え込む花那は少しも知りもしないで。