セカンドマリッジリング ―After story—
悪意と向き合う心の強さ
「ねえ! 帰り道で花那さんを見なかった?」
用事を済ませて急いで帰ってきた夫に駆け寄り、美海はキョロキョロと彼の周りを確認する。そこに誰かがいる事を期待しているかのようだった。
「花那さん? いいや、見てないが。まさか、彼女に何かあったのか?」
「それが……」
ワントーン低くなった名賀の声、二人の間に緊張が走る。もしかしたら、颯真の心配していた何かが起こってしまったのではないかと。
美海の頼んだ買い物なら、もう十分帰ってきてもいいはずの時間が経っている。店の方に電話で確認したが、それらしき女性は来てないと言う事だった。それほど分かり難場所にある店でもない、真面目そうな花那がいい加減なことをするとも思えない。だとすれば……
「店には来てないって言われたし、それほど遠い場所でもないのに! 花那さんはどこに行ったの?」
責任を感じてか、普段は余裕のある態度の美海が今にも泣き出しそうな顔をしている。やはり自分が買い物に行けば良かった、そう思っても後の祭りだ。
そんな妻の様子に名賀は、椅子を用意し彼女を座らせ優しく抱きしめた。
「俺が店まで行って確認してくる、美海はいつでも電話に出れるようにここで待っていてくれ」
「でも……‼︎」
自分だけ残れと言われても、美海は納得できない。この原因は自分にあるのだから、美海自身が花那を探しに行きたかった。
「俺がいない時間、ここを任せられるのはお前だけなんだ。お客さんに心配かけてはダメだろ、すぐに戻るから」
「わかった、わ」
もうそろそろ食事の準備を始めなければならない、増えた分の宿泊客の事も忘れてはいなかった。急ぎでバイトを頼んだ女性もそろそろ来るはず。
美海は気持ちを切り替えると、立ち上がり名賀に向かって微笑んでみせた。もう大丈夫だと言うように。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
そう言って玄関から出て行った名賀を、美海は祈るような気持ちで見つめていた。