セカンドマリッジリング ―After story—
「今日は早く帰れそうだな、せっかくだから花那の好きそうなデザートでも買っていこうか」
颯真は腕時計を確認すると、小さく微笑んだ。彼女を不安にさせないためとはいえ、慣れないペンションの手伝いに疲れているかもしれない。今日はゆっくり二人の時間をとるのも悪くない、そんな風に考えていたのだが……
メッセージを送っておこうかとスマホを取り出した颯真の歩みが止まる、車はすぐそこだというのに。
「……なんだ、この不在着信の件数は?」
彼の知らない番号ではない、だがその着信件数は尋常ではなかった。もともと自分にはそう関心のなかった人のはず、それなのにこれはいったいどういうことなのか?
五分おきに残された不在着信、サイレントモードに設定して鞄に入れていたため気づかなかったが……それは昼辺りから続いていたようだ。
その異様な状態に、颯真の背筋に冷たいものが流れるような気がした。嫌な予感しかしない、そう分かっているがきっと知らないふりは出来ないだろう。
颯真は唇を噛み締めて、スマホを指でタップする。プルルル、という音の後に聞きなれた女性の声が聞こえてきた。
『遅いじゃないの、何度も電話したのにどうしてすぐに出ないの?』
「俺だって社会人としてきちんと仕事をしてるんです、貴女の都合に合わせてばかりいた学生の頃とは違う。それで……今日の用件はなんですか、母さん」