セカンドマリッジリング ―After story—
「もう一度、言います。真由莉さん、さっきの言葉を謝ってください」
「謝れ、ですって? へえ、私にそんなことを言うのね。今の花那さんの言葉を颯真兄さんが聞いたらどう思うかしら?」
真由莉の右手には彼女のものと思われるスマホ、その画面を花那に見せつけてきた瞬間に自分が真由莉の思い通りの言動を取ってしまったことに気付かされた。
間違ったことは言ってない、そう分かっているのに花那は表情を強張らせてしまう。その様子に真由莉が笑みを深め、追い打ちをかけるように言葉を続けてくる。それが楽しくて堪らないとでもいう様に……
「颯真兄さんは昔から私をとても可愛がっているの、だってずっと一緒に暮らしてきた家族だから。それなのにたった数年……夫婦ごっこをしているだけの花那さんが、妹に謝罪を強要しているなんて。ふふ、きっと良い気分はしないはずよね?」
「どういう、意味ですか? それは」
真由莉の言葉は意味深で、まるで花那と颯真の契約結婚のことを知っているかの様な口ぶりだった。
しかも彼女が持っているスマホに表示されている録音画面にも、きっと真由莉や彼女の両親にとって都合の良い部分しか録音されてないに違いない。そうやって花那の父と母への酷い発言は間違いなくなかったことにされるはずだ。
花那の心は真由莉のナイフで抉るような言葉によって、揺さぶられそのまま傷付けられてしまいそうだった。足が地についてないような不安定さの中、花那は必死で一人でその悪意と向き合っている。
……必ず、颯真の元に無事に戻るのだと心に決めて。